平成27年度『UECパスポートセミナー』の講義内容

1年次の後期(第2学期)に理工系教養科目として『UECパスポートセミナー』を開講します。このセミナーは,それぞれの分野で研究をされている学内の5名の先生方の講演と学内研究設備での実習,学外の5名の先生方の講演と学外の研究施設・研究所の視察からなるユニークなセミナーです。

学外講師による講演内容

1月28日(木)

宇宙航空研究開発機構 航空技術部門 FQUROH(機体騒音低減)プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 山本 一臣 先生

第11回講演タイトル:航空機の騒音とその低減についてクリック

 航空機の騒音はジェット旅客機が現れた1960年代から半世紀にわたって、空港周辺環境改善のための、航空機の課題として技術開発が行われてきています。その結果、特にジェットエンジンの低騒音化により、初期のものに比べれば最新の旅客機は非常に静かなものになってきました。しかし、2000年以降、世界的な航空輸送の需要の高まりや、欧州を中心にした環境に対する意識の高まりもあり、低騒音化は今でも航空機を開発するための重要な技術課題として研究が進められています。また、航空機騒音の主な原因である「空力騒音」は高速鉄道、自動車や発電用風車から、掃除機、エアコンなどの家電製品、PCの冷 却ファンなど、他の様々な機械における共通の技術課題でもあります。

 そこでこの講演では、空力騒音について理解を深めて頂くための話題として、航空機騒音を題材に、空力騒音の基礎、航空機騒音の推移、空港での対策、航空機の騒音源とその物理的なメカニズムや特徴、低騒音化の方法、JAXA での研究開発活動などを紹介します。

キーワード

航空機、騒音、空港、ジェットエンジン、空力音響、低騒音化

レポート課題

 航空機の騒音に関する以下のいずれかについて説明し、その将来に対する自身の考えや感想を記述しなさい。

・空港周辺環境への影響と推移

・航空機の騒音発生原因とその物理

・低騒音化の考え方と技術開発

見学日程
  • 2月29日(月)
  • JAXA調布航空宇宙センターの見学(13時-15時)

1月14日(木)

東京大学 物性研究所 長谷川研究室 助教 吉田 靖雄 先生

第10回講演タイトル:スピンを見る顕微鏡クリック

 現代社会において、磁石は、スピーカー、ハードディスクなどの身近なものから、風力発電システムやリニアモーターカーなどの大型なものまで幅広く用 いられています。このように、我々の生活に欠かせない磁石は、その内部にあるとても小さな電子の磁石(スピン)が秩序化することで、磁石としての性質 が発現しています。このミクロな磁石、スピンがどのように秩序化しているのかというミクロな情報を、直接“見る”ことができる顕微鏡が近年開発され、 注目を集めています。この顕微鏡は、究極の空間分解能を持つ、走査トンネル顕微鏡(STM)を応用したものであり、スピン偏極STM と呼ばれています。 セミナーでは、その原理を知る上で、不可欠な量子力学の基礎を簡単に説明し、STM に用いる実際の探針や試料に触れてもらったり、スピン偏極STM の研究 例を説明したりしながら、超ミクロの世界の面白さをお伝えしたいと思います。

キーワード

走査トンネル顕微鏡 ナノサイエンス 磁性 表面

レポート課題
  1. トンネル効果について調べ、その現象を自分の言葉で説明して下さい。  また、その応用例を一つ挙げて説明して下さい。
  2. トンネル磁気抵抗効果について調べ、その現象を自分の言葉で説明して下さい。  また、その応用例を一つ挙げて説明して下さい。
見学日程
  • 2月22日(月)

12月24日(木)

理化学研究所 仁科加速器研究センター 上野核分光研究室 先任研究員 高峰 愛子 先生

第9回講演タイトル:光で見る原子核クリック

 我々人間自身も含めて目に見える物質はすべて原子からできていますが、その重さの大半を担うのは原子の中心にいる原子核です。原子核は陽子と中性子から成りますが、その数が変わるだけで多種多様な顔を見せます。原子核は陽子と中性子が非常に強い力で集まってできているため、単純には密に集まった球形をしているかと思われますが、実際には変形した核も数多く存在します。また、天然には存在しないような、非常に短い時間で崩壊して他の原子核に変わってしまう原子核の中にはその質量数(=陽子数+中性子数)の割に極端に大きく広がっているようなものもあります。そういった”奇妙な”原子核の構造や性質を知ることは、原子核を統一的に理解するために必要ですし、更に、超新星爆発において数多くの元素がどのようにしてできたかを解明するためにも必要です。原子核の性質を調べるには色々な方法がありますが、ここではレーザーを使った原子分光を通じた原子核研究を中心に紹介します。

キーワード

不安定核 レーザー核分光 同位体シフト 超微細構造

レポート課題
  1. 原子準位を精密に測定すると原子核のどのような性質が分かるか挙げよ。
  2. なぜレーザーで原子を冷やすことができるか説明せよ。
見学日程
  • 2月23日(火)

12月3日(木)

東京大学 生産技術研究所 藤田研究室 特任助教 佐藤 隆昭 先生

第7回講演タイトル:マイクロ・ナノマシン技術入門クリック

 半導体微細加工技術の発展に伴って, LSIといった電気デバイスだけでなく, マイクロマシンやナノマシンなどの機械デバイスも進歩し続けている. 例えば, 今までに髪の毛の直径ほどのモーターを作成し, 毎分10000回転という極めて速い速度で回転できている.

 本セミナーでは『マイクロ・ナノマシン技術入門』という書籍での内容をもとに, 近年発展が著しいマイクロ・ナノマシン技術について紹介する. 具体的には, 1)マイクロマシンの基本的な作成技術と, 2)いくつかのマイクロマシンを紹介する. 講義で話せる内容は非常に少ないので, より具体的な内容は『マイクロ・ナノマシン技術入門』を参考に, また加工技術や駆動原理の詳細は『マイクロマシーニングとマイクロメカトロニクス』を参考にして頂きたい.

 見学会として体験する内容は, マイクロマシンを透過型電子顕微鏡の内部で動かすことで, 観察している材料の変形を原子レベルで見る実験を行う. 運が良ければ原子の動きをリアルタイムで観察できる.

キーワード

マイクロマシン, MEMS, 微細加工技術

レポート課題

 物の寸法が大きく変わると, 支配的な効果が変わる. アメンボを例にすると, アメンボの体の大きさは非常に小さいので, 寸法の3乗に比例する体積の効果(重力)は極端に小さくなる一方で, 寸法の2乗に比例する面の効果(表面張力)の効果が相対的に大きくなる. すなわち, 重力の効果より表面張力の効果が支配的になるため, アメンボは水の上に浮かぶことができる. なので, もしアメンボの寸法がメートルスケールになれば水に浮かぶことができない.

 ここで(1)寸法が小さくなるとより支配的になる効果(物理量)は具体的になにか? また(2)寸法が小さくなると, 影響が小さくなる効果(物理量)は何か? (3)以上を踏まえ, ミクロの世界ではどのような世界なのか紹介してください.

見学日程
  • 2月19日(金)

11月26日(木)

東京工業大学 生命理工学研究科 近藤研究室 助教 口丸 高弘 先生

第6回講演タイトル:生物発光によって拓かれる癌研究クリック

 自然界には自らの体内で光をつくりだし発光する多くの生物がいます。具体的に発光する生物といえば、多くの人がまず蛍を思い浮かべるでしょう。蛍が発光する基本原理は、100年以上前に発見され、その後の研究で、ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応による生物発光生成機構の詳細が明らかになっています。一方、この10年程の間に、蛍の生物発光は、多くの生物医学研究、特に癌研究に必要不可欠な研究ツールになりつつあります。遺伝子組換え技術によって蛍の様に発光する癌細胞をつくりだすことで、マウスの体内で増殖・移動する癌細胞の様子を体外から観察することが可能になりました。このような、生物発光を利用した生体イメージング技術は、癌を生物学的に理解する上で重要な知見をもたらしています。講義では、生物発光がいかに癌研究に利用されているか解説すると共に、現在も進化を続ける生体イメージング技術について紹介したいと思います。

キーワード

生物発光、癌研究、生体イメージング

レポート課題
  1. 蛍光と発光の違いを説明せよ。
  2. 自然界における蛍以外の生物発光の例を挙げて、その発光機構を酵素-基質反応から説明せよ。
見学日程
  • 2月25日(木)

学内講師による講演内容

12月10日(木) 准教授 瀧 真清 先生

第8回講義:創薬システムエンジニアリング(人工分子の進化によるものづくり)クリック

 我々は様々な疾患を治療・発見するために、疾患蛋白質にのみ特異的に結合する人工物質を得るためのシステムを作ってきた。具体的には人工分子コアをT7ファージウィルス表面で分子進化させる手法(Gp10 based-thioetherification; 10BASEd-T法)を開発してきた。その結果、癌関連蛋白質に特異的に結合可能な超分子(英国王立化学会誌Chem. Commun., 3921 (2014); inside cover article)や、結合したときだけ蛍光色が黄色から青色に変わり、なおかつ蛍光強度が顕著に増大するセンサー分子(2015; 未発表)の取得に成功している。

 当日は、これら実施例を紹介するほか、このような最先端の医工学システムの構築において、いかに学部で皆が習う基礎事項が多く使われているかを解説する。大学の基礎学問は、知識欲を満たし人生を豊かにする薫り高い文化としていかに面白いかは言うまでもなく、時として種々の実学においても直接的/間接的に役立つこともあるので奥が深い。

 現代の創薬分野において、基礎化学、基礎生物学はもとより、基礎物理学、基礎数学、基礎分析技術などを多角的に理解しようと努めることは重要であり、おそらく他のどのような分野においても、似たことが言えるのではないだろうか。複雑な時代になればなるほど、それら物事の背景にある基礎を一つ一つゆっくりでもいいから、丁寧に理解することが肝心なのではないかと私は思う。

キーワード

基礎,基礎,基礎,進化分子工学

レポート課題
  1. 現代の最先端の医学をもってしても、@癌やAアルツハイマー病の完治がなぜ極めて難しいのかを、それぞれ論理的に説明しなさい。
  2. 創薬により人間の寿命や機能を人工的に補修することが、果たして本当に人間や自然界の生物たちにとって有益であるか、あなたの考えを根拠とともに論理的に自由記述しなさい。人やネット上の意見は参考にしても鵜呑みにせず、きちんと自分の頭で考えて、自分なりの言葉で書くこと。
実習日程
  • 12月24日(木)16:15-
  • 1月4日(月)16:15-
  • 1月7日(木)16:15-
  • 集合場所:東6号館821号室
  • 実習内容:実験装置等の見学及びデモ

11月12日(木) 准教授 森下 亨 先生

第5回講義:アト秒スケールでの原子・分子の振る舞いクリック

 より速い自然現象の理解を目指して超短パルスレーザーの開発とそれを利用した研究が盛んに行われています。今世紀に入り、パルス幅はフェムト(10-15)秒領域を超え、アト(10-18)秒領域へ突入しました。アト秒は原子内電子の軌道周期の典型的な時間スケール(水素原子内の電子の周期は150アト秒)であり、アト秒パルスの登場は、原子や分子内の電子の動きを追いかけたり、さらには操ったりする可能性が開けたことを意味します。このようなアト秒パルスの発生の物理、アト秒パルスを用いた原子・分子の電子状態の観測の物理についての最近の研究についてお話します。

キーワード

アト秒、超高速、原子・分子、強レーザー

レポート課題
  1. 現在の最短パルスは67アト秒だという。この時間に光は何メートルすすむか?
  2. アト秒、もしくはもっと短いパルスで見てみたいものを考えてください。なぜ、それが見てみたいのかも教えて下さい。
実習日程
  • 12月17日(木)16:15-
  • 12月17日(木)16:45-
  • 12月17日(木)17:15-
  • 集合場所:東6号館528号室
  • 実習内容:見学

10月29日(木) 助教 牧 昌次郎 先生

第4回講義:ホタル生物発光型近赤外発光標識材料の創製と実用化クリック

 癌の克服と再生医療の実用化は,現代医療の悲願でもあるが,この技術の社会実現のためには,これらを研究するための技術の高度化が必要である.光インビボイメージングは,精度高く生体内部を可視化する技術であるが,ホタル生物発光の天然材料を使った発光標識材料では,波長が560nm程度であり,生体深部を可視化することができない.蛍光材料では,外部照射が必要でありやはり,深部可視化は難しい.また蛍光を有する生体物質との見分け厄介である.そこで,ホタル生物発光材料を人工化することで,生体の窓領域(650〜900nm)に発光を示す,ホタル生物発光材料の創製を試みた.(後略.クリック

キーワード

生体内可視化,ホタル生物発光,生体機能応用,先端ライフサイエンス,実用化

レポート課題
  1. この技術の特徴は何か簡潔に(一言で)答えよ
  2. この技術を開発する必要性は何か?自分で考えよ
  3. この技術を実用化する意味は何故か?説明せよ
実習日程
  • 1月5日(火)16:15-
  • 1月5日(火)16:45-
  • 1月5日(火)17:15-
  • 集合場所:東6号館837号室
  • 実習内容:実験装置等の見学及びデモ

10月22日(木) 准教授 松林 和幸 先生

第3回講義:相転移を操る〜極限環境下でみえてくる物質の個性〜クリック

 水は常圧において0℃以下で氷になりますが、水に1万気圧の圧力を印加すると室温でも固化すること(圧力氷)をみなさんは知っていますか?温度や圧力を変化させることによって起こる物質の状態変化は「相転移」と呼ばれますが、極低温や超高圧下では室温・常圧の常識からは逸脱した不思議な相転移が観測されることがあります。

 本講演では、私たちの身近に存在する物質が示す相転移現象を手始めとして、物質が示すマクロな性質とその変化をミクロな視点から解説します。また、多数の電子がひしめき合って存在する物質中で発現する多彩な相転移(超伝導や磁気秩序)について紹介し、極限環境下(極低温・超高圧・高磁場)における物性研究の最前線についてお話しします。

キーワード

相転移,超伝導,磁性,極低温,超高圧

レポート課題
  1. 温度または圧力の変化によって起こる相転移についてそれぞれ2つずつ具体例をあげて説明せよ。 (ただし、上記の水の例は除く)
実習日程
  • 12月17日(木)16:15-
  • 12月17日(木)16:45-
  • 12月17日(木)17:15-
  • 集合場所:東6号館319号室
  • 実習内容:相転移をみる〜水の圧力による状態変化,高温超電導体の磁気浮上〜

10月15日(木) 学術技師 小林 利章 先生

第2回講義:最先端の教育研究を支える寒剤供給体制クリック

集合場所:A201

 物性物理学,光科学,新しい機能を持つ電子デバイスの開発を目指す電子工学など実験的研究においては,温度を制御して対象の振る舞いを測定することや新規現象を実現させて観察することが重要な研究手法です.特に温度を下げて低温環境を実現することはとても重要な実験操作ですが,物体を冷却するためには様々な工夫が必要です.簡単な方法は低温の物体(寒剤)に対象を接触させて熱を奪うことです.液体窒素(77K)は安価に大量に使うことが出来るので沢山使われていますが,さらに低い温度を実現するためには液体ヘリウム(4.2 K)が利用されます.液体ヘリウムは超伝導コイルの冷却にも使われます.さらに冷凍機を利用し様々な手法を組み合わせることで,対象を絶対零度に限りなく近い超低温まで冷却することも可能です. ヘリウムは有限の地下資源であり,日本では全量を国外からの輸入に頼る貴重資源です。資源の有効利用を図るために本学ではヘリウム液化システムを整備し運用しています.ヘリウムの循環利用により貴重な資源を有効利用できるだけでなく,実験室で安価に液体ヘリウムを利用できるようになるので研究環境を整えるためにも非常に重要な設備です.ヘリウム液化システムは主要大学や研究所で運用されていますが関東でも数カ所のみであり,多摩地区では本学にしか置かれていません.

 今回はこのヘリウム液化システムを含めた寒剤供給体制の見学の他,研究設備センターが運用する測定装置類の見学も合わせて行います. 

キーワード

液体ヘリウム,液体窒素,低温実験

10月8日(木) 教授 鈴木 勝 先生

第1回講義:トライボロジー入門クリック

 摩擦現象は最も身近な現象の1つです。高等学校の教科書をみても摩擦法則が説明されています。たとえば「摩擦力は見かけの接触面積に依らず,垂直荷重に比例する」ということが書かれていたことを思い出すひともいるでしょう。この法則を意味することは工学的に重要です。たとえば重たい大きな直方体の石材は運ぶとき,広い面を地面に接しても,狭い面を接しても引く力は変わらないことを意味します。さて,この法則はどのように説明されるのでしょうか,またどのくらい「正しい」のでしょうか。これはなかなか難しい問題です。このような摩擦や摩耗を研究する学問分野をトライボロジー(英: tribology)と言います。この「トライボ」という言葉はギリシア語で「擦る」を意味するτριβωから取らています。摩擦に関係する現象は大きなスケールでは地震があり,この研究分野をジオトライボロジー,原子や分子のスケールの摩擦の研究分野をナノトラボロジーと呼びます。

 講義では,はじめに歴史的にどのように摩擦法則が発見され説明されてきたかを解説します。そのあとで私たちの研究室で行っている原子や分子のスケールでの摩擦法則を探る研究その結果の一部をお話しします。

キーワード

摩擦,アモントン‐クーロンの法則,ナノトライボロジー

レポート課題
  1. 摩擦を小さくすることに利用されている技術を説明しなさい。
  2. ナノスケールの摩擦法則は大きな物体間に成り立つ摩擦法則と異なることが予想される。その理由を説明しなさい。
実習日程
  • 12月22日(火)16:15-
  • 12月22日(火)16:45-
  • 1月5日(火)16:15-
  • 集合場所:東1号館103号室
  • 実習内容:摩擦力顕微鏡の見学とデモ

受講申し込み延長のお知らせ

締切:10月8日(木)18:00 

パスポートセミナー受講希望者は必ずメールを下記に送ってください.

contactアットpassport.uec.ac.jp

(アットを@に置き換えてください。)

件名:パスポートセミナー申込

内容:学科+学籍番号+氏名+受講理由

受講理由がないものは受け付けません.

A学籍番号@uec.ac.jpメールにて送付すること.

ガイダンス

時間:10月1日(木)1限 

場所:A201

UECパスポートプログラムの目的とセミナーの内容をご案内した後,受講希望者数を調査します.

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