平成26年度『UECパスポートセミナー』の講義内容

1年次の後期(第2学期)に理工系教養科目として『UECパスポートセミナー』を開講します。このセミナーは,それぞれの分野で研究をされている学内の5名の先生方の講演と学内研究設備での実習,学外の5名の先生方の講演と学外の研究施設・研究所の視察からなるユニークなセミナーです。

学外講師による講演内容

決定次第随時更新していきます.タイトルは変更される可能性があります.

1月22日(木)

愛知教育大学 理科教育講座 三浦研究室 教授 三浦 浩治 先生

講演タイトル:摩擦の科学:超潤滑技術をめざしてクリック

 摩擦力は、動かそうとする力に対し抵抗する力と理解されています。物体が止まっているときには、摩擦力と動かそうとする力がつりあっていると考えます。このとき働いている力を静摩擦力と呼びます。一方、物体が動いているとき働いている力を動摩擦力と呼びます。摩擦は太古の昔から文明の形成・発展と結びつく重要な問題の1つです。したがって、摩擦は実用の世界から高校の物理の教科書にまで登場します。マクロな固体間の滑り摩擦力に関しては、アモントン・クーロンの摩擦法則と呼ばれる以下の3つの経験則が極めて広い範囲で成り立つことが知られています。 1)摩擦力はみかけの接触面積に依存しない、2)摩擦力は2面間にかかる荷重に比例する、3)動摩擦力は静止摩擦力より小さく、滑り速度によらない。この法則は、文献的には、レオナルド・ダ・ビンチに始まり、アモントンとクーロンによって確立されたとされています。まず、講義では、アモントン・クーロンの摩擦の法則について具体的に例を挙げながら説明します。

 一方、原子や分子と同程度のスケールになると、摩擦力が飛び飛びの値を示す摩擦力の離散化などマクロでは見られない現象が起こります。原子や分子のスケールの摩擦力は、原子間の結合力と破断力の両方が関係しています。さらに、摩擦は、地震から原子スケールまでさまざまなスケールの多様な舞台で起こる階層性をもつ現象であると同時に、スケールを越えた共通性、普遍性をもっています。最終的に、摩擦力の基本的知識を習得した後、摩擦という身近な物理現象を通して、科学の不思議さ、面白さを味わってもらいたいと思います。

キーワード

アモントン・クーロンの摩擦法則、原子スケールの摩擦、身近な摩擦

レポート課題
  1. アモントン・クーロンの摩擦の法則と摩擦の発生原因が時代背景とともにどのように理解されてきたかを調べてきてください。
  2. 日常の摩擦現象にはどんなものがあるかを3つ程度その根拠を含め例示してください。
見学日程
  • 3月6日(金)
  • 愛知教育大学三浦研究室の見学・実習

1月8日(木)

浜松ホトニクス 常務取締役 中央研究所 研究所長

静岡大学 イノベーション社会連携推進機構 客員教授 原 勉 先生

講演タイトル:光技術で何ができるのか?クリック

 『真の価値は金(かね)ではない、新しい知識だ』―我が社の哲学です。それを具現化するために中央研究所では、主に、情報・計測分野、材料分野、健康・医療分野、およびバイオ分野において新しい知識を獲得するため、光に関する基礎研究および応用研究を進めています。人類には知らないこと分からないことが無限にあります。我々は光を用いてこれらの未知未踏分野を切り拓くことが使命であり、光を深く追求することで世の中の様々な問題を解決し人類社会に寄与できるものと考えています。

 今回の発表では、具体的な研究開発の一端を紹介させていただきながら、当社の企業風土や文化、研究開発の考え方について触れさせていただきたいと思います。

キーワード

光技術、研究マネジメント、和の心、真の価値は新しい知識、浜松光宣言

レポート課題
  • 2015年は「国際光年」であり、その根拠として以下の4つのイベントが挙げられています。 2つを選んで、それぞれについて光と関連づけながら内容を説明してください。
  • 1815年
    光の波動性の発見(Fresnel)
    1865年
    電磁界理論(Maxwel)
    1915年
    一般相対性理論(Einstein)
    1965年
    宇宙背景放射の発見(Penzias & Wilson)
  • またこのほか光学にとって大きな出来事(発明や発見)を一つ挙げてその概要を説明して下さい(国際光年に関連させなくて良い)。(例:1960年のレーザーの発振)
見学日程
  • 2月24日(火)
  • 中央研究所の見学(2時間程度)

12月18日(木)

独立行政法人 物質・材料研究機構

理論計算科学ユニット 材料特性理論グループ 末原 茂 先生

講演タイトル:計算で物質を見るということクリック

 物質を調べる方法には、大きく分けて2つのアプローチがあります。対象となる物質を実際に手元に持ってきて実験で調べる方法と、計算機の中にその物質のモデルを構築して調べる理論的な方法です。前者は、実在する物質の観察や計測を通して嘘のない「事実」を提供してくれるという意味で、非常に強力な方法です。しかし、実際の研究現場では、使用する実験装置の測定限界や、実験の都合上どうしても排除できない不確定な要素が関係して、素性の良い結果が得られないこともしばしば起こります。そういう場合には、後者の理論に基いた方法、すなわち、「シミュレーション」が、実験結果の解釈を助けてくれる場合があります。うまくいけば、シミュレーションによって実験だけでは辿り着けないような領域の知見も得ることができます。

 物質を理解するためのこの理論的なツールの開発には、これまで非常に多くの科学者たちが携わってきました。理論計算科学分野は現在も発展途上にありますが、先人の鋭い洞察や新しい着想から様々な工夫が加えられ、それらが高く積み上げられてきたおかげで、今ではかなり広範囲にわたる物質群の構造や特性をコンピュータシミュレーションで再現したり予測できるようになってきました。

 本セミナーでは、物質科学で使われる理論的な手法の代表格である第一原理計算を用いた研究例を紹介しながら、そこで使われる物理の法則や数学的な近似にはどういったものがあるのかについてお話しする予定です。

キーワード

物質科学、第一原理計算、モデル、近似

レポート課題
  1. 物質や材料のシミュレーション方法を調べ、3つ以上挙げてください。
  2. それらの手法の簡単な説明(その方法の目的や長所、短所など)をまとめて、それぞれを対比したわかりやすい表を作ってください。
見学日程
  • 2月27日(金)
  • NIMSの1PFLOPS級スパコンの見学、他(未定)

12月11日(木)

独立行政法人 情報通信研究機構

光ネットワーク研究所 光通信基盤研究室 主任研究員 赤羽 浩一 先生

講演タイトル:光る半導体結晶 〜様々な場面で使われる化合物半導体〜クリック

 現代の情報化社会において最も重要な物質は半導体であるシリコンであるといっても過言ではありません。シリコンにより作られた微細なトランジスタはコンピューターのCPUだけでなく様々な装置に組み込まれています。しかし、そんなシリコンにも苦手な事があります。それは「発光する」ということです。発光するすなわち光を発生するということは情報を可視化したり、伝達したりするという意味で重要です。このような発光現象を示す半導体としては2種類以上の元素からなる化合物半導体があります。(日本の研究者が受賞した今年のノーベル物理学賞も窒化ガリウムという化合物半導体の研究に対して与えられました。)講義ではまず物質の結合状態を解説し、どのような元素が半導体の結晶を作るかを示します。また、シリコンが光りにくく、化合物半導体が光りやすい原因を解説します。次に発光現象により発生した光の取り扱いについて解説し、最後にこれらの材料、現象を用いた応用例を示します。

キーワード

結晶,半導体,光デバイス

レポート課題
  1. 身の回りで使われている「結晶」で自分が最も重要だと考えるものを3つ挙げてください(上記のシリコン、窒化ガリウムは除く)。また、その理由を詳しく説明してください。
見学日程
  • 2月23日(月)
  • NICTの見学

11月27日(木)

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 分子科学研究所

物質分子科学研究領域 電子物性研究部門 中村グループ 准教授 中村 敏和 先生

講演タイトル:電気を流す有機物とは?伝導性・磁性を理解しよう。クリック

 世の中には銅やアルミなど電気を流すもの(良導体)や、プラスティックや電気を流さないもの(絶縁体)があります。一方で昔は電気を流さないと思われていた有機物でも、電気を流したり中には超伝導を示す物も化学者の手によって合成されています。携帯電話のディスプレイ材料にも使われているものもあります。私たちは、その電気を流す有機物(有機導体)の性質を磁気共鳴という方法で調べています。磁気共鳴とは、分子の中の核スピン(核の磁石)や電子スピン(電子磁石)にエネルギーを与えてその挙動を調べる計測法です。医療で使われているMRIもその原理を使っています。講義では簡単なデモンストレーションなどを行いながら、金属、半導体、絶縁体といった物質の性質の違いについて説明を行いたいと思います。また、電子マネーなどで使われている電磁誘導や、電気抵抗が消失する超伝導の性質についても、触れる予定です。

キーワード

有機導体、磁性、電磁誘導、超伝導

レポート課題
  1. 電気を流すもの(良導体)と電気を流さないもの(絶縁体)には、どんなものがあるか?またその性質を述べなさい。
  2. 磁石に引っ付くもの(強磁性体)と引っ付かないもの(常磁性体、非磁性体)には、どんなものがあるか?またその性質を述べなさい。
見学日程
  • 3月4日(水)
  • 分子科学研究所 放射光施設(UVSOR)の見学他

学外研究施設見学について

12月24日(水)に宇都宮大学の見学を予定しています.新宿発・着は9:00・18:00の予定です.詳細はおって連絡します.

施設見学のページを開設しました. 学外施設見学クリック

学内講師による講演内容

11月13日(木)・教授 渡邊 昌良 先生

第5回講義:光とは… −技術と物理にまつわる話から−クリック

 “光”と聞いて皆さんはなにをイメージしますか。太陽、月、星そして虹…、いやもっと身近に、蛍光灯、電球、そしてノーベル賞のLED…、いや、電通生なら光通信・情報処理、CD、Blu-Ray、レーザー…、そして、光って波であり粒であり…。そう、皆さんの数だけ光の連想とイメージがあるはずです。“もっと光を…”と言ったのは有名な文豪…。

 人はモノと光に囲まれ生きています。モノは触れて、光は見えて…、でも光がなかったらモノも見えなくて…。で、いったい光ってなんだろう。最も身近な存在であり昔からの人類の大きな疑問の一つであり関心事でもあり続けてきました。知っての様に光は先人たちの多大な努力によって解明され利活用されてきました。エジソン電球、そしてレーザー、LED、いずれも世界を変えその時代をリードしてきた先端技術です。そして光は宇宙を理解する手掛かりにも…。話がやや発散してしまいましたが、セミナーでは光に関わる事柄を時間が許す限りいくつかお話したいと思います。研究室で取り組んでいる新しい光源技術の実験も言及できたらと思っています。皆さんの光のイメージを少しだけ膨らませ発展させる一助になれば嬉しいです。

キーワード

光、レーザー、波動光学、量子光学、コヒーレント光、波長変換

レポート課題
  • 下記の3項目から一つを選び説明せよ。
    1. 光についての(自分の)イメージ
    2. (自分が知っている/自分が調べた)光のハイテク
    3. 光を用いた(自分が考えた)夢のテクノロジー
実習日程
  • 12月8日(月)1.16:15- 2. 17:05-
  • 集合場所:西2号館405教室前
  • 実習内容:見学(予定)

11月6日(木)・助教 谷口 淳子 先生

第4回講義:低温で現れる量子の世界〜超流動を例として〜クリック

 液体ヘリウムをマイナス271度に冷やすと,粘性が消失しさらさらと流れてしまう,という実に不思議な(超流動という)現象が現れます.この現象は,原子が「波」としてもふるまえるという量子力学的な効果のために起こります.それでは、なぜ,低温でこのような量子力学的な効果が表れるのでしょうか.それは,高温では原子の熱運動が激しく,量子力学的な効果を隠してしまうからです.講演では,まず超流動という現象を紹介したのち,そのメカニズムについて出来るだけ難しい言葉を使わずに説明したいと思います.最後に,現在の超流動研究の一端に触れ,またその研究を支えている実験装置なども紹介したいと思います.

キーワード

ヘリウム,超流動,ボース・アインシュタイン凝縮

レポート課題
  1. ボース・アインシュタイン凝縮について説明せよ.
  2. 低温で現れる量子現象を一つ取り上げ,説明せよ.
実習日程
  • 12月4日(木)16:30-
  • 12月5日(金)16:30-
  • 集合場所:東1号館101教室
  • 実習内容:超伝導転移や超流動転移の観察

10月23日(木)・准教授 三瓶 嚴一 先生

第3回講義:プリン体についてもっと知ろう!クリック

 ビールからカットされるプリン体。何かと悪者のイメージが先行するプリン体ですが,実は生命にとっては必要不可欠なものです。

 それがどのように合成させるのか,またその合成経路(生合成系)は生命進化の過程でどのように作られてきたのかについて,現在までにわかっていることについてお話します。

キーワード

プリンヌクレオチド生合成系,タンパク質の立体構造解析,代謝系の起源と進化

レポート課題
  1. プリン体がなぜ生命にとって必要なのかについて具体的に説明しなさい。
  2. なぜプリンヌクレオチド生合成系は生命が最初に獲得した物質代謝系のひとつであると考えられているのか?
実習日程
  • 12月11日(木)16:15-
  • 12月12日(金)16:15-
  • 集合場所:東6号館704演習室
  • 実習内容:コンピューターによるタンパク質立体構造解析

10月16日(木)・准教授 山北 佳宏 先生

第2回講義:分子線で見るナノクラスターの電子構造と反応性クリック

 物質を細かくしてゆくと原子や分子になります。その一歩手前のナノメートル(10-9 m)の大きさを持つ粒子は、原子や分子にはない特異性を持ちます。すなわち、ほとんどの原子・分子が表面付近に露出し、電子の運動も境界の影響を受けるようになります。このように数個から数千個の原子・分子が集まった集団を「ナノクラスター」と呼びますが、これらは新しい物質の発見や溶液をはじめとした物質のミクロな理解にも役立ちます。この領域はいまだ未開拓な研究分野です。さらにナノクラスターは、電子デバイスの高機能化、生体機能の理解や創出、分子素子の開発につながります。

 私たちは、真空中でビームとしてナノクラスターを生成し、その電子構造を観測することや、ひとつひとつの粒子が起こす反応を画像化する研究を行っています。研究で大切にしていることは、世界に一つしかない装置を自作すること、そしてコンピュータを使った理論計算にも果敢にチャレンジすることです。講演では、ナノクラスターの分子線実験で用いられる技術に加えて、解析に不可欠な量子化学計算の歴史と最前線を紹介します。

キーワード

ナノクラスター、分子線、分子技術、量子化学計算、電子分光

レポート課題
  1. 半導体や太陽電池でナノメートルサイズの粒子が使われている例を挙げ、小さくしたことによる効果を述べよ。ただし、場所を取らないなどの自明な理由ではなく、高校や大学で学ぶ物理的・化学的な背景をもとにして書くこと。
  2. ナノクラスターについて、自分だったらどのような研究をするかを書け。実験でも計算でもよい。
実習日程
  • 12月8日(月)16:15-
  • 12月9日(火)16:15-
  • 集合場所:東1号館113号室
  • 実習内容:ナノクラスターの質量分析とペニング電子分光の実施

10月9日(木)・准教授 奥野 剛史 先生

第1回講義:蛍光体を用いた新しい光電子技術クリック

LED電球が身の回りで使われるようになってきました。青色発光ダイオード(LED)で黄色の蛍光体を光らせ、混ざった色が白色となっています。LED電球の開発において重要なひとつは蛍光体でした。蛍光灯の内側に塗られている白い粉は、以前から使われている蛍光体の例です。いっぽう光ファイバーは、太平洋を横断して私たちの家の近くまで情報を運んでくれています。しかし家の中では情報は光ではなくて電波や電線にのっています。そしてパソコンや電気機器の中では光ではなくて電子が動き回って不要なジュール熱を発生しています。ここでも蛍光体をうまく利用することによってもっと光を使えるようになるかもしれません。蛍光体研究を現代の電子機器や半導体技術と結びつけることで、低消費電力の新しい光電子技術を切り開こうとする研究について紹介します。

キーワード

光 蛍光体 光電子素子 発光ダイオード 半導体

レポート課題
  1. 新しく「光を発するもの」が実現するとどのような良いことがあると思うか。2つの例を考えて、それぞれ説明してください。
実習日程
  • 12月1日(月)16:15-
  • 12月2日(火)16:15-
  • 集合場所:東6号館401号室
  • 実習内容:硫化物蛍光体の発光スペクトル測定

ガイダンス

時間:10月2日(木)1限 

場所:A201

UECパスポートプログラムの目的とセミナーの内容をご案内した後,受講希望者数を調査します.

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