平成24年度『UECパスポートセミナー』の講義内容

1年次の後期(第2学期)に理工系教養科目として『UECパスポートセミナー』を開講します。このセミナーは,それぞれの分野で研究をされている学内の5名の先生方の講演と学内研究設備での実習,学外の5名の先生方の講演と学外の研究施設・研究所の視察からなるユニークなセミナーです。

学外講師による講演内容

1月24日・名古屋大学 極低温量子物性研究室 檜枝光憲 講師

第10回講義:超流動ヘリウム研究の古今東西〜粘性抵抗ゼロの不思議な世界〜クリック

粘性抵抗がゼロの液体(超流動)って想像できるでしょうか?絶対零度に近い極低温では、液体ヘリウムがまさにその超流動現象を示します。1908年にオランダの物理学者カマリン・オネスが、当時、永久気体と呼ばれていたヘリウムガスの液化に成功し、その興味深い量子物性にはじめて気がつきました。この不思議な液体ヘリウムの超流動現象は、1911年にオネスが発見した金属がゼロ抵抗を示す超伝導現象と同様に、量子力学が巨視的な大きさで現れた巨視的量子現象と呼ばれています。それからすでに100年以上もの歳月が経過しましたが、現在においてもなお液体ヘリウムの研究が続けられ、物性物理学の研究だけではなく宇宙・素粒子の研究へも応用が成されようとしています。本講義では、液体ヘリウムの超流動現象研究の歴史を振り返りながら、最近の研究までを紹介したいと思います。

レポート課題
  1. 量子論、量子力学について現時点で知っている事があればそれを書きなさい(例をあげて説明すればよい)。
  2. 通常の圧力では物質を冷やしていくと、気体から液体、そして最終的には固体となる(例えば、水蒸気→水→氷)。唯一、ヘリウムだけが絶対零度でも固化せず液体で存在する物質である。それはなぜか?(量子力学と関係があります)
  3. 絶対零度に近い極低温では、私たちが日常生活で使用している温度計は役には立たない。どのような方法なら極低温で温度計測ができるか?

1月17日・情報通信研究機構(NICT)時空標準研究室 井戸 哲也 主任研究員

2012年11月1日よりご所属変更:経営企画部企画戦略室 経営企画部プランニングマネージャー

第9回講義:精度のいい時計があると見えてくるもの

物理量の測定とは、比測定物とその物理量の標準の間の比率を取る作業に他ならなく、その精度は比率を取る精度と共に、標準の精度に依存します.そして数ある物理量の中で最も精度の良い標準が時間、すなわち時計であり、現在我々は15桁の不確かさで時間を計測する装置を購入することが出来ます.このような超精密計測はこれまで新しい物理現象の発見や机上の理論の検証に決定的な役割を果たしてきました.セミナーではこのような事例を示すと共に、より高精度な時刻や周波数を得るために現在行われている不断の努力を紹介します.絶対的なものを求めるほど相対的なものに頼ることになる、そんな時刻周波数標準の世界を垣間見て頂けたらと思います.

レポート課題
  1. 日本の標準時はどこでだれがどうやって決めているのか説明してください.
  2. 時計の精度が今後さらに改善されたときに新たに観測可能となることが期待される現象を挙げてください.

1月10日・東京大学物性研究所計算物質科学研究センター神戸分室 藤堂眞治 特任教授

第8回講義:サイコロを振って科学する 〜モンテカルロ法とスーパーコンピュータ〜

一般的に、コンピュータというものは、あらかじめ定められたプログラムに従い決定論的に単調な計算を繰り返していると信じられている。しかしながら、今日の科学技術計算においては、乱数にもとづく確率的な計算方法 -乱択アルゴリズム(randomized algorithm)- も広く用いられる。乱択アルゴリズムは、多くの応用において、しばしば最も単純なアルゴリズムか、最も高速なアルゴリズムか、あるいはその両方である。その中でもモンテカルロ法は、物性物理、素粒子物理のみならず、化学、生物、医学、統計などの分野において、さらに近年では、バイオインフォマティクス、金融分野でも使われるようになってきている。講演では、確率の基礎について簡単に復習し、乱択アルゴリズムの具体例についていくつか解説したのち、スーパーコンピュータ「京」などの超並列計算機を用いた物性物理分野における磁性体のシミュレーションへの応用例を紹介する。

キーワード

乱数、モンテカルロ法、スーパーコンピュータ、並列計算、磁性体

レポート課題
  1. 景品問題(ルールの詳細は講演の中で解説)において、最初の選択から変える/変えない、の二つの戦略それぞれの場合の勝率を求めよ
  2. 身のまわりにある問題を一つ取り上げ、それに対するモンテカルロ法などの乱択アルゴリズムによる解法を考案せよ。

12月20日・東京大学物性研究所新物質科学研究部門 森初果 教授

第7回講義:分子を組み立てて、有機超伝導体や強磁性体を作るクリック

有機物は元来電気を流さない絶縁体で、たとえばリード線の被覆のポリ塩化ビニルなどのように絶縁材料として用いられてきました。その中で、「有機物にも電気を流す」物質開拓に日本人化学者が挑戦し、良導性半導体を開発しました。その後、銅のように金属的な性質を持つ有機金属、さらに抵抗が臨界温度以下で消失する有機超伝導に開発に成功し、現在までに120種類余りが見出されています。さらに近年、有機伝導体開発でなされた分子設計を適用して、有機エレクトロニクスの研究も精力的に行われています。例えば、自己発光型の有機EL(エレクトロルミネッセンス)は携帯電話のディスプレイとして広く利用されており、シリコンに変わり、有機トランジスタ、有機太陽電池なども次世代の有機機能性材料として研究が進められています。本講演では、物質設計、合成力を有する化学者が、物性実験・理論の物理学者や工学研究者と協力して、不可能を可能にする物質開発を展開している機能性の有機物質科学について、講演者の研究を含めて紹介します。

キーワード

機能性有機物質、有機超伝導体、有機強磁性体、有機エレクトロニクス

レポート課題
  1. 元来絶縁材料であった有機物質に、電気伝導性を付与したときの物質設計指針は何であったか?
  2. 超伝導が示す性質は何か?
  3. シリコンエレクトロニクスに比べて、有機エレクトロニクスの利点、欠点は何か?

12月6日・理化学研究所光グリーンテクノロジー 特別研究ユニット 和田智之 ユニットリーダー

第6回講義:光グリーンテクノロジー -レーザーを使ったセンシング研究-

人類が構築してきた文明社会を継続し、次世代に引き継いでいくためにはさまざまな問題を抱えている。自然環境の変化、二酸化炭素や核汚染ないエネルギー、人口増加に伴う食糧不足、超高齢化社会に伴う医療問題などがあげられる。われわれの研究グループでは、レーザー材料の開発、光制御技術を駆使した新しいレーザー光源を開発し、その応用として人類が抱えてい問題の解決に挑んでいる。講演では、我々のコア技術となるレーザー結晶の開発とレーザー開発について解説したのち、新しい光源を利用して、環境計測では遠隔地検知技術、エネルギーでは太陽光の有効利用、農業では光センシングと光合成の制御、医療分野では薬を極力使わない医療など、光の応用の可能性に関して我々のアプローチを紹介する。

キーワード

レーザー、エネルギー、環境計測、農業、医療乱

レポート課題
  1. レーザー光と蛍光灯などから得られる通常の光の違いを述べよ。
  2. 環境計測、医療計測に利用されるレーザーの性質を述べよ。
  3. レーザーと基礎となる誘導放出について述べよ。

学内講師による講演内容

11月8日・浅井吉藏 教授

第5回講義:磁性とその周辺クリック

磁石は鉄を引きつける不思議な岩石として紀元前の古くから人類に知られてきた。又、羅針盤として16世紀の大航海時代を支えた。磁石は19世紀以降の発電機,電動機,変圧器等の強電機器への利用により電気エネルギーの人間生活への有効活用の道を開き、更に今日ではメモリデバイスへの応用に象徴されるように情報化社会の基盤を支える物質となっている。又、物質の磁性(磁場に対する一般的な応答、強磁性もその1つ)は物質内部の電子の状態によるので、電気伝導、誘電特性等の電気的性質に関係する場合も多い。このように磁石は身近にあり、磁性は興味ある事象でありながら、その原理的な事柄は意外と理解されていない。講義では,磁性の源が何であるか(答えは電子のスピン)、強磁性体ではアボガドロ数程度の電子のスピンが何故揃うのかという磁性の基礎を学ぶ。更に磁性の研究で使われる多彩な研究手法の一端に触れる。

キーワード

磁性、電子、スピン、磁気抵抗、核磁気共鳴、中性子散乱

レポート課題
  1. 何故1つの磁石には同量の磁荷があるのか?
  2. 核磁気共鳴(NMR)を観測することにより、どのような事柄が分るか?
  3. X線回折では、原子配列の周期が求まる.中性子線回折では、原子配列の周期以外にどのような事柄が分るか?

11月1日・西岡一 准教授

第4回講義:超短パルス超高出力レーザークリック

レーザー光は単色でどこまでも続く波といったイメージがもたれています。しかし、レーザーの特徴を生かすと光周波数で数サイクルの非常に短い光を発生させることができます。こうした短い光は、広い周波数帯域を持ち白色に見えるほど超広帯域の光です。短い時間にエネルギーを集中させると高強度の光電場を発生できます。この光電場は、原子核と軌道電子の結合力を超えることができるため、レーザー光を用いて物質の性質を制御することが可能になります。この講義では、光の性質、レーザー装置の特徴を踏まえて、超短パルス光の性質と発生原理につい述べ、超光強度レーザーを用いた光の非線形伝搬について概説します。さらに、短い光の波形を正確に測定する方法について紹介します。

キーワード

レーザー、超短パルス光、非線形光学、コヒーレント過渡現象

レポート課題
  1. パルス幅10 fsの光を発生させるために必要な周波数帯域は幾らか。 また、スペクトル成分はどのような位相関係である必要があるか。
  2. 超短パルス光のパルス幅を計測する方法について述べよ。

10月25日・水柿義直 教授

第3回講義:電子は「粒子」か「波」か − 超伝導現象を例にして ― クリック

電気抵抗は、結晶内での電子の運動が何らかの原因で妨げられるために発生します。具体的には、結晶中の欠陥や不純物、結晶格子を構成する原子の振動(格子振動)などが電子の運動を妨げる原因です。格子振動による抵抗は、温度を下げると小さくなります。結晶中の欠陥や不純物による抵抗は、温度を下げても残留します。このような電気抵抗の起源は、電子を「粒子」として考えて理解できます。一方、低温に冷やすと電気抵抗がゼロになる物質があります。これは「超伝導」と呼ばれる現象で、約100年前に発見されました。超伝導状態では、電子が2個でペア(クーパー対)を形成します。クーパー対は、電子と格子振動との相互作用が強い材料ほど形成されやすくなります。一つの超伝導体の中では、全てのクーパー対を一つの波動関数で記述することができるので、電子の「波」の性質が強く現れます。このことから、超伝導体は単なる完全導体とは異なった性質を示します。

キーワード

結晶格子、電子、粒子性と波動性、超伝導、クーパー対、ボーズ凝縮

レポート課題
  1. 銀、アルミニウム、鉛の0 °Cでの抵抗率は、それぞれ0.015 μΩm、0.025 μΩm、0.19 μΩmです。銀は超伝導になりません。(超伝導転移温度が限りなく絶対零度に近い、とも言えます。)アルミニウムと鉛は超伝導になり、超伝導転移温度はそれぞれ1.2 Kと7.2 Kです。これらのことから、金属での抵抗率と超伝導転移温度との相関関係について、その原因も含めて考察しなさい。

10月18日・白川英樹 准教授

第2回講義:バイオサイエンスにおける光技術の応用クリック

顕微鏡の発明以来、生物科学の研究は新たな光技術の開発と並行して発展を続けてきました。今日の生命科学・生命工学分野で使われる測定・解析手法には、実に様々な光技術が応用されていますが、本講義では、特に生体機能分子(主にタンパク質)との関連に焦点を当てて解説します。生物試料を対象としたときに大きな威力を発揮する最先端の光学顕微鏡法のほか、生きた状態での生体分子の動きを詳しく『観る』ための技術だけでなく、素子として生体分子を『使う』技術についても概説したいと思います。オワンクラゲのGFPに代表される蛍光タンパク質や、蛍など光る生物の発光タンパク質などのバイオイメージングでの応用について、さらに、最近注目されている光センサータンパク質を利用して生物機能を制御するユニークなアプローチについても紹介します。

キーワード

バイオイメージング、蛍光、光センサー分子、タンパク質工学

レポート課題
  1. 生きたままの細胞の中で特定の種類の分子だけを観察するには、どのような方法を用いればよいか?
  2. 光センサータンパク質の応用法(対象は生物でなくても構わない)を1つ提案せよ。

10月11日・平野誉 教授

第1回講義:ホタルとウミホタルの光:古くて新しい化学―生物発光研究の歴史から電通大での研究へクリック

私たちの研究室では、「光が関与する生体機能」に学ぶ光科学の開拓を目指しています。特に、ホタルやウミホタル等の発光生物に学ぶ機能性発光材料ならびに植物に学ぶ人工光合成反応の開発に挑戦しています。専門分野は有機光化学で、日夜、物質合成と反応開拓の実験を進めています。先端研究を進めるには科学的な背景、歴史、理論を理解することが不可欠です。本講義では生物発光の化学を題材に科学的な進歩がどのようになされてきたかを解説します。皆さんの良く知っているホタルの研究は科学技術の進歩と並行して発展したことが良くわかります。先人の苦労の上で、 私たちは反応の仕組みや発光色を決める原因を明らかにし、新しい色素分子の開発を電通大から発信しています。

レポート課題
  1. 生物が化学反応を使って光る仕組みについて、本講義で興味を持った点を列挙してください。
  2. ホタルやウミホタルの光る物質は、どのように応用できるか、自分なりのアイディアを書いてください。

ガイダンス

10月4日

UECパスポートプログラムの目的とセミナーの内容をご案内した後,受講希望者数を調査します.