『サイエンス・コミュニケーション演習』

3年次(4年次)の上級科目として『サイエンス・コミュニケーション演習』を開講します。『UECパスポートプログラム』の一環として開講される本科目の目的は、科学の専門的な内容を他者に伝える具体的なアプローチの例を学び、今後、学生が自ら専門的な内容を他者へ発信できる能力を高めようとするものです。

受講生による講義紹介

夏季休業期間最後の週に行われた『サイエンス・コミュニケーション演習』の授業では,国立科学博物館の前島正裕先生,はやのん理系漫画制作室の小林早野(はやのん)先生,日経サイエンスの古田彩先生という,各分野の最前線でご活躍中の3人の先生方に,それぞれ熱弁をふるっていただきました.受講生は皆得るものがあったと確信しております.以下に,受講生から来期の授業を受ける皆さんへ,今回の講義の紹介を行ってもらいました.

各講義を受講して

博物館は歴史をつくる -国立科学博物館 前島正裕先生の講演より-

誰しもが一度は博物館や科学館に行ったことがあると思います。科学をなにも知らない小さい子供から大人まで、たくさんの人がどうして楽しむことができるのか、その秘密を知ってみたくはないですか?研究者と一般の人たちの知識のギャップは思った以上に大きく、分かりやすく楽しめるように科学を伝えるのは難しいことです。たくさんの研究員の苦労と、工夫があってこそ科学館はできあがります。″博物館は社会の鏡。博物館での資料の保存が歴史をつくっていく″のです。博物館はただ資料を並べているだけの施設ではありません。前島先生の講義を聞いて、博物館・科学館の世界をのぞいてみませんか。(3年 S.N.さん)

わかりやすく伝えるには -はやのん理系漫画制作室 はやのん先生の講演より-

私たちが「もの」を書く際に、読み手にわかってもらう「もの」を書くことは当然です。しかし、それは難しいことでもあります。その時の重要なポイントを今回、マンガを通して科学を伝えているはやのん先生に教えていただきました。その中でも具体的に1つ例をあげると、対象者が誰であるのかを明確にするということです。実際に演習を通して実感しましたが、同じものを伝えるとしても対象者が変わるだけで全く文章が変わってきます。 いかに普段自分が「もの」を書く際に読み手を意識せずに書いていたのかを気付かされました。(3年 Y.T.さん)

科学記者のお仕事 -日経サイエンス 古田彩先生の講演より-

個人的に斬新だったのは、記者はサイエンスコミュニケータとはまた違い、研究を評価する立場であり、完全に研究者寄りというわけではないということ。研究者の意見をうのみにすることなく取材は行われる。そのうえで研究者としてどのように記者と接して科学を世に広めていくべきかというお話をしていただいた。幅広く細かいお話をしていただき大変面白かったが、どんなに難しいものでも説明する必要性を説かれている際には改めて伝える難しさを実感できた。(3年 Y.N.さん)

全体を通して

科学を分かりやすく伝えること

サイエンスコミュニケーションという言葉を聞いてピンと来ない人も多いのではないだろうか。一般の人にも科学について分かりやすく伝えていくことで、研究者と一般の人との間にある知識量の差を少しでも埋めていき、その重要性や面白さを理解し興味をもってもらうことがサイエンスコミュニケーションをとる最大の目的である。この講義では科学について科学を学んでいない人に向けてどのように伝えていくか3人の講師の先生たちが違った立場からお話してくれた。研究者の考えをいかにして人々に伝えていくか。また研究者としてどのようにその面白さを伝えていくか。普段受けている講義とは一味違った、考えさせられる授業である。(3年 A.Y.さん)

皆さんには失敗して欲しくない!

2012年24〜28日にかけて電気通信大学でサイエンスコミュニケーション演習という集中講義が行われました。講師の方には、国立科学博物館、日経サイエンス編集部で勤務なされている方、理系の内容を描いている漫画家の方など様々な職業の方をお呼びし、相手に『伝える』ことでどのようなことが重要かということを教えて頂きました。私は現在4年生で、ゼミなどで実験結果を発表していますが、この講義を受講後、自分の説明は先輩や先生方に『伝わって』いないと実感しました。様々な職業・立場の方が色々な角度で『伝える』工夫をなされていました。3年生の方々も私の様に失敗する前に、予めいろいろな工夫を身につけてみてはどうでしょうか?(4年 I.H.さん)

「人に伝える」を見つけよう

理学、科学を万人に解るように伝えることは困難であることがあたりまえだと思います。伝える人の年齢、最低限の知識、理解度など人によって千差万別だからです。でも知ってもらわなければ人々からすれば意味のない研究になってしまいますし、知らないことで恐怖を覚える人も出てきます。ここで「どのように伝え、どのような方法があるのか」が課題となってきます。これから研究で発表を行うことが増えてくると思うので、ぜひ「伝える」ということの専門家たちから伝え方について色々学んでみてください。今後の自分の為に非常に役立つ上、普段聞けないようなことがたくさん聞けて面白いですよ。(4年 S.Y.さん)

受講申し込み方法

下記の情報をパスポートプログラム事務室までに送ってください.参加人数に上限があるため,応募者多数の場合は選抜を行います.履修の受付完了者には返信メールをお送りします.

  • 学籍番号,氏名,学科コース(研究室)
  • 受講したい理由
  • この講義に期待すること
  • 自己PR(任意)

平成24年度『サイエンス・コミュニケーション演習』

参加者は以下の日程で行われる専門講師による講演を聴講し,前後に出題される課題に取り組んでもらいます.

講演日程

講演案内

9月24日(月)3−4限:前島正裕先生

講演タイトル:1.博物館で科学を伝える,2.「モノ」を通して伝える

科学博物館では、大人から子どもまで、専門家から幼稚園児まで、科学に触れ楽しく理解していただく場を提供しています。展示や普及活動における工夫や、博物館ならではの活動について紹介し、科学・技術についてわかり易く伝える意義や方法を一緒に考えます。

課題

授業までに博物館を一館見学し、博物館の展示を見て、下記2点についてレポートしてください。見学する博物館は美術館など科学博物館以外でもOKです。レポートは合わせてA4用紙1枚以内で、授業中に3分で報告をお願いします。

  • 1.展示や普及活動を見て「伝える」工夫で気が付いたこと、感心したことを記しなさい。
  • 展示品、内容、雰囲気作り、手法、説明、造作、装置などについて
  • 2.興味を持った展示について、どのように工夫すれば、もっとわかり易くなると思うか、自ら展示をするつもりで自分なりの工夫を考えなさい。
  • 展示品、内容、雰囲気作り、手法、説明、造作、装置などについて

9月26日(水)3−4限:古田彩先生

講演タイトル:「マスコミの使い方」

 ブログを書く、ツイッターでつぶやく、サイエンスカフェを開く、本や記事を執筆する。研究者が社会に発信する方法は色々ありますが、その1つにマスコミを通じて発表するという手段があります。記者会見を開いたり、取材に応じたりすることです。多くの人に情報を伝えることができる利点がありますが、リスクもあります。記者はしばしば科学をわかっていませんし、自分の文脈で話を理解しがちです。研究者が書いて欲しいことはなかなか書きませんし、言ってないことを書いたりもします。

 しかしこうしたやりにくさは、実はマスコミを通じて発信するメリットでもあります。研究が素人の第三者から見たストーリーになる、すなわち視点がプレーヤーから観客の側に移ることが、記者を通して情報発信する最大の意味だからです。取材する側とされる側の関係を通して、マスコミを通じてうまく情報発信する方法を考えます。

課題

自分の研究、または興味のある研究を1つ選び、一般の人向けに紹介する記事の見出しとリードを考えて下さい。リードというのは記事の冒頭に付ける短い文章のことです。狙いは読者に伝えたいメッセージを印象づけ、「読んでみようか」という意欲を起こさせること。この研究の魅力はここだ!とアピールするコピーにして下さい。1行32字以内、最大3行まで。

  • 見出しとリードの参考例をこちらに示します。
  • 9月25日(火)20:00までに、メールを送ってください。

9月25日(火)3限,および9月28日(金)3限:はやのん先生

講演タイトル:科学を紹介する「言葉選び」

 はやのん理系漫画制作室では,「マンガでカガクをおもしろくする」をテーマに,難しい科学の話題をわかりやすく紹介する活動をしています.「これはこういうものです」と説明しようとするとき,本当に理解しているのかが試されます.対象となるテーマを正確に,魅力的に伝えるためにはどうしたらいいかを考える演習です.

絵は描ける人と描けない人がいるため絵を描く実技的なものは予定していません.演習中では言葉での説明,絵での説明における「正確さ」「親しみやすさ」を上げる方法を伝えます.

参考としての紹介マンガはこちら

課題

電通大キャンパス内にあるUECコミュニケーションミュージアムを見学し,まだ行ったことのない人に「紹介をしてあげる」短い文章を5つ作成してください.

  1. UECコミュニケーションミュージアムについて.どんな場所なのか,どこにあるのか等,これを見ただけで,初めて見る人が興味を持ち,ミュージアムに行ける内容にしてください.
  2. UECコミュニケーションミュージアム内にあるおもしろい展示物を4点紹介してください.

文字数は1つにつき,140文字.Twitterと同じ文字数です.制限文字数内で必要な情報を取捨選択し,不足なく書ききることを目標にして欲しいと考えています.

  • 上記5点を9月24日(月)までに、メールで提出してください.
  • Subjectは「UEC集中講義」とし,差出人が誰なのかわかるよう署名をつけてください.
  • 提出された文章は演習中で紹介し,ディスカッションの題材とします.

7月10日(火)5限:ガイダンス

『サイエンス・コミュニケーション演習』の目的,概要の説明を行います.同時に受講希望者数の調査を行います.

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授業風景

講演者プロフィール

前島正裕先生

国立科学博物館理工学研究部,研究主幹.

人と電気のかかわりの歴史について興味がある.博物館では,電気技術史の調査・資料収集,科学の教育普及,科学・技術に関連する展示などを担当し,国立科学博物館企画展「日本を明るくした男達」,特別展「情報世紀の主役たち」,特別展「江戸大博覧会」など担当.

著書に『産業技術誌』裳華房(2010)、『歴史学事典 ものとわざ』弘文堂(2007)(以上共著)など。

小林早野(はやのん)先生

はやのん理系漫画制作室代表,理系漫画家.

琉球大学理学部物理学科卒.新聞,雑誌,大学・研究所の広報用として,科学の話題を紹介する漫画を制作している.日刊工業 新聞『キラリ研究開発』,Rikejo『Rikejoのオシャレ研究所』NintendoDREAM『すすんだ!天任家族』連載中.趣味は英語学習.

古田彩先生

日本経済新聞社 日経サイエンス編集部,記者・編集者.

日本経済新聞社の新聞部で,医療分野,IT分野の担当を歴任後,日経サイエンス編集部へ.医療から量子力学という幅広い分野での取材,編集を続けている.