平成25年度『UECパスポートセミナー』の講義内容

1年次の後期(第2学期)に理工系教養科目として『UECパスポートセミナー』を開講します。このセミナーは,それぞれの分野で研究をされている学内の5名の先生方の講演と学内研究設備での実習,学外の5名の先生方の講演と学外の研究施設・研究所の視察からなるユニークなセミナーです。

学外講師による講演内容

タイトルは変更される可能性があります.

1月16日・理化学研究所 創発物性科学研究センター物質評価支援ユニット 橋爪 大輔 ユニットリーダー

第10回講義:X線回折で観る分子の姿クリック

X線は電磁波なので、電子・原子核といった荷電粒子によって散乱される。一方、散乱強度は(e2/m)2に比例するため、原子核からの散乱は無視でき、X線は電子により散乱されると言える。つまり、X線結晶構造解析は結晶中の全電子密度分布を観測する手法である。しかし、一般に本手法は「静的な分子の構造」を得るために用いられる。
「静的な分子の構造」は大まかには内殻電子分布として得られると言ってよい。これでは化合物の性質を決定する最大の要因「価電子」の存在が忘れられている。また、「静的な構造」だけと言うのも引っかかる。結晶は外部環境によって、その状態で一番安定な状態に変化する。自然現象を理解する目的において、このダイナミクスを観測しない手はない。
講演では構造の見方について概説した後、分子集団のダイナミクスの観測、精密な価電子分布の解析による結合状態の解析を例として、分子の構造だけでないX線結晶構造解析についてお話します。

キーワード

結晶構造、分子の電子状態、結晶構造のダイナミクス

レポート課題
  1. X線結晶構造解析を使って研究するとしたら、どのような研究をしますか?

1月9日・大阪市立大学 超低温物理学研究室 石川 修六 教授

第9回講義:巨視的量子現象とは何だろう?クリック

20世紀初頭にそれまでの古典物理学では理解できない現象を理解するために「量子力学」という学問体系が確立され、原子内電子の状態や熱輻射の現象を理解することができるようになった。物質には粒子・波動の二重性が本質的にあることを示すものである。量子力学は原子内電子の運動が永久運動となることを示していたが、原子という小さな粒子内でのさらに小さな電子という微粒子に起こる特別なことと理解されていた。一方20世紀になってから発見された低温での超流動・超伝導状態は驚異的な永久運動を含むものであった。原子内の電子のような微粒子に発現しているのではなく、液体とか金属内電子を構成する多数の粒子(〜1023個)が関与するマクロな領域で発現する現象である。このようなマクロな数の粒子が起こす低温での現象は巨視的量子現象と呼ばれている。少し難しいことですが、講義では易しい解説で紹介するつもりです。

キーワード

超流動、超伝導、粒子・波動二重性、ボース・アインシュタイン凝縮、クーパー対、巨視的量子現象

レポート課題
  1. 超流動・超伝導現象に共通する現象を複数個示しなさい。
  2. ボース・アインシュタイン凝縮と気体が液体に変わる凝縮(液化現象)との違いは何ですか。

12月12日・成蹊大学 ナノテクノロジー研究室 佐々木 成朗 教授

第8回講義:摩擦の科学とナノテクノロジーの世界 〜分子のボールを転がして摩擦ゼロを目指す〜クリック

摩擦はエジプト文明のはるかな昔から知られているありふれた現象です。しかし摩擦がきっかけで生じる経済損失は十数兆円にも達し、エネルギー・経済問題に大きな影響を与えるため、摩擦を小さくする方法の探索は産業上の要請です。一方、摩擦が相対運動する二つの物体の接触面の間で生じることを考慮すると、原子・分子の世界では体積に比べて表面の効果が著しく増大するため、物体の運動は摩擦に強く支配されるようになります。従ってナノテクノロジーで作製した微細機械の運動は摩擦で阻害されてしまうのです。そこで私達は、炭素原子で出来た分子のボールをビー玉のように転がして、摩擦をゼロの極限まで小さくする究極の省エネルギー機械(分子ベアリング)の開発を進めています。本講義では私達の超低摩擦条件探索の研究を紹介すると同時に、本研究がナノテクノロジー、バイオ、環境分野を横断する先端科学の新分野を切り拓く大きな可能性を秘めていることをお話しします。

キーワード

摩擦、超潤滑、フラーレン、グラフェン、摩擦力顕微鏡、ナノテクノロジー

レポート課題
  1. 身の回りの摩擦現象の例を三つ挙げて、その摩擦を小さくするとどのようなことが起きるのかを予測し、それが私達の生活に役に立つのか立たないのかを述べなさい。「靴と床の間の摩擦」のように「○と○の間の摩擦」という形で答えること。

12月5日・情報通信研究機構 光ネットワーク研究所光通信基盤研究室 菅野 敦史 主任研究員

第7回講義:光で電波を作って送る 〜高速光通信と無線通信を橋渡しする光ファイバ無線技術〜クリック

毎秒1ギガビットを超える高速な光ファイバ通信サービスが家庭向けとして開始されています。また、LTEなど高度なモバイル通信技術の発展により、無線でも毎秒100メガビットを超える速度を実現できるようになってきました。しかし、光ファイバ通信では既に毎秒100ギガビットを実現する技術が開発されており、無線技術との速度差は100倍以上に開きつつあります。また、無線通信ではその特性上、無線信号(電波)が届きづらい場所が必ず存在するため、さらなるサービスの向上のためにも、サービスエリアの拡大と飛躍的な高速化を避けて通ることはできません。

この講義では、地下やトンネル、高層ビルなどの無線通信サービスが困難な場所での、いわゆる「電波が入らない」状態を解消するための技術の一つである光ファイバ無線技術の研究開発と、最先端の超高速光通信技術を利用することで無線通信の速度を飛躍的に向上させる技術、および、光ファイバ無線技術の非通信応用について紹介します。

キーワード

光ファイバ通信、無線通信、テラヘルツ通信

レポート課題
  1. 光ファイバ通信を用いずに、地球(直径約12,800km)の裏側(例えば、日本からならアルゼンチン)とできるだけ「はやく」通信する方式を考案し、その「はやさ」について考察せよ。

11月28日・日本原子力研究開発機構 高崎量子応用研究所 量子ビーム応用研究部門 小林 泰彦 研究主席

第6回講義:マイクロビーム細胞狙い撃ち照射によるバイスタンダー効果の解明 ―放射線が当たった細胞から当たっていない細胞への情報伝達―クリック

放射線や放射能は、得体の知れない不気味なものではなく、物理法則に貫かれた自然現象です。19世紀末に偶然発見され、原子の内部構造を解明する20世紀の物理学の扉を開きました。今や人類は、放射線の起源と物体への作用の原理を解明し、医療、農業、工業など社会の中で様々に活用しています。強い放射線は細胞を傷つけるおそれがあるので生物にとって危険ですが、微量の放射線の人体への影響はあまりにも小さく、有害か有益か、検証は困難です。低線量(率)放射線の影響は、高線量(率)放射線の縮小版ではありません。生体が持つ様々な防御力やストレス応答によって照射効果を左右される一方、影響を受けるのは直接放射線がヒットした細胞に限らないことも分かってきました。そのような「非標的効果」の一つ、放射線が当たった細胞から当たっていない細胞に影響が伝わる現象:バイスタンダー効果の研究を通して放射線生物学の最前線を紹介します。

キーワード

マイクロビーム、バイスタンダー効果、放射線、低線量(率)、非標的効果

レポート課題
  1. 放射線で非加熱殺菌ができるのはなぜか? そもそもヒトや病原菌も含め生物が放射線に弱いのはなぜか?
  2. 低線量(率)放射線の生物影響は高線量(率)放射線のそれの縮小版ではない、とはどういう意味か?
  3. なぜ生物は進化の過程でバイスタンダー効果のような機能を獲得してきたのだろうか?

学内講師による講演内容

11月14日・小久保 伸人 准教授

第5回講義:超伝導体の量子渦をSQUID顕微鏡で覗いてみようクリック

超伝導体に磁場を印加すると超伝導電流の渦(量子渦)が多数発生することが知られています。渦の運動は超伝導状態に有限の電気抵抗をもたらす原因となるため、超伝導の応用上、量子渦の正しい理解は重要です。量子渦は超流動ヘリウムや希薄原子気体などの他の量子凝縮系とも共通し、その基本的性質を調べる研究がこれまで行われてきました。最近、超伝導電流渦の中心に伴う磁場の束(磁束)に着目し、ミクロなスケールの磁場の分布の形から量子渦を可視化する試みが行われています。本講演では、超伝導を使った先端技術である超高感度な走査SQUID顕微鏡をとりあげ、その動作原理を簡単に解説します。小さな超伝導体を舞台に観測された量子渦のパターンの顕微鏡像など講演者が行っている最近の研究を紹介し、先端技術としての超伝導を学びます。

キーワード

超伝導、量子渦(磁束量子)、走査SQUID顕微鏡

レポート課題
  1. 微小な超伝導体の形状と誘起される量子渦の配列の関連性を述べなさい。

11月7日・狩野 豊 教授

第4回講義:バイオイメージングによる筋機能解析クリック

私の研究室では、外界刺激(ストレス)に対する生体応答・情報処理の生理学的・生体工学的解析を行っています。特に、身体運動や環境変化に対する運動器(骨格筋、血管など)の生体調節や可塑性に関しての研究を進めています。例えば、筋力トレーニングによって筋肉は肥大し、力強くなります。その反対に、寝たきりの状態が続くと、筋の萎縮が生じて歩行さえも困難な状態になります。このような身体適応のキーとなるのが「カルシウムイオン」です。これまで、先進のバイオイメージングを応用し、実験動物を用いて生きたままの状態で筋細胞内の様々なイオンや物質の動態を調べてきました。本講義では、これまでの研究成果の一部を紹介します。そして、生物学での基礎研究から「スポーツや医療の現場において求められている研究課題とは何か?」を皆さんと一緒に考えたいと思っています。

キーワード

骨格筋、身体活動、カルシウムイオン

レポート課題
  1. 骨格筋の適応とカルシウムイオンの関連性について述べなさい。

10月31日・一色 秀夫 教授

第3回講義:ダイヤモンドを創るクリック

古代よりダイヤモンドは人々を魅了し続けてきました。その起源はどこに在るのか考えてみましょう。ダイヤモンドは宝石の代表です。では“宝石”とは?第一に希少であること,第二に美しさ;ダイヤの場合は透明度や輝きといってよいでしょう,そして第三に硬さです。下図にダイヤモンドの結晶構造を示します。ダイヤモンドは,炭素の立体構造(sp3結合)で形成されています。木炭や鉛筆の芯も炭素で出来ていますが,こちらは平面構造(sp2結合)であるグラファイトで出来ています。炭素の場合この平面構造が比較的安定ですが,立体構造は高温高圧のような極限環境下でしか形成されず希少な存在となっています。ダイヤモンドの硬さもこの立体構造によるものです。ダイヤモンドの結晶構造は,また高い透明度と大きな屈折率をもち,宝石の美しさの要素となる全反射や内部の乱反射が輝きとなって見えてきます。これらの特徴は次世代の工学・医学応用に違った形で生かされていきます。本講義では,ダイヤモンド合成と応用を中心に話を進めます。

キーワード

ダイヤモンド、炭素、グラファイト、プラズマCVD、ワイドバンドギャップ、パワーデバイス

レポート課題
  • ダイヤモンドは,何故宝石として珍重されたのか。
  • ダイヤモンドは自然界でどの様に造られたのか。
  • 人工ダイヤモンドの作製法を2つ挙げよ。
  • ダイヤモンドの合成は何故難しいのか?
  • ダイヤモンド技術の応用例を2つ挙げよ。

10月17日・桂川 眞幸 教授

第2回講義:レーザー技術の極限化とともに発展する光科学クリック

2010 年はレーザー誕生から50 周年、2011 年は非線形光学誕生から50 周年を迎える記念すべき年でした。レーザー技術、及び、それと互いに相補的な関係にある「光科学」は、この 間、目覚しい発展を遂げました。50 年を経た現在もその勢いは衰えていません。得られた知見は、現代のナノテクノロジー・材料、ライフサイエンス等の様々な重点科学技術分野にお けるイノベーション創出に不可欠なものとなっています。

 この講義では、この 50 年間連綿と続けられてきたレーザーの性能を極限化する技術開発と、さらにそれと密接に絡みあいながら相補的に発展してきた光科学の歴史を概観します。

キーワード

レーザー、光科学、非線形光学、極限技術

レポート課題
  1. 反射率99%のミラーを2 枚向かい合わせると、99%の反射率にも関わらず、光はある条件下でそのミラー対を100%透過することができる(ファブリーペロー共振器/干渉計の原理).一見では矛盾するようにみえるこのメカニズムのからくりを物理的に説明せよ。(読みづらい方は,PDFを参照してください)

1枚だと

図1

2枚置くと(ただし,ある条件を満たすように置きます)

図2

10月10日・中村 淳 教授

第1回講義:計算機シミュレーションで探るナノの世界クリック

西洋科学は「実験と理論」あるいは「基礎と応用」という、対向する視点を両輪として発展してきた。ある意味では対立することもある二つの視座の間に入って媒介するのが、「計算科学」と呼ばれる第三のアプローチである。計算科学の主な役割は、(1)基礎方程式は与えられているが、それを解析的に解くことが不可能な場合に計算機を使ってシミュレーションする、(2)そもそも簡単な方程式では記述できないような複雑な物理現象のメカニズムを、計算機を使って直接調べる、ということにある。解析的な解が求められないとき、基本方程式に含まれていない影響を考慮する必要があるとき、極端な環境下における漸近的な振る舞いを知る必要があるとき、あるいは、最適な実験条件を実験に先立ってあらかじめ予想したいとき、など、計算機シミュレーションは様々な研究開発の場面で重要なツールとなっている。本講義では計算機が物性科学に果たす役割と中村淳研究室での研究例を紹介する。

キーワード

物質設計、計算機シミュレーション、電子状態理論、結晶、分子、物性

レポート課題
  1. 計算機シミュレーションを用いないと解けない(と思われる)問題を考え、その解き方の道筋を説明せよ。(答えはもちろん必要ない)

ガイダンス

10月3日

UECパスポートプログラムの目的とセミナーの内容をご案内した後,受講希望者数を調査します.