2023年度『サイエンス・コミュニケーション演習』

3年次(4年次)の上級科目として『サイエンス・コミュニケーション演習』を開講します。『UECパスポートプログラム』の一環として開講される本科目の目的は、科学の専門的な内容を他者に伝える具体的なアプローチの例を学び、今後、学生が自ら専門的な内容を他者へ発信できる能力を高めようとするものです。

受講生による講義紹介

全体を通して

『全ての人に伝えるために』

サイエンス・コミュニケーションとは、科学に詳しくない人も含めて全ての人々に技術を知ってもらい、また支持してもらう事です。聞いた事ない科目だな、、?、最初この科目について知った時はこんな感じの気持ちでしたが、受講を終えた現在、私たちのような専門的な科学分野を勉強する者にとっては必須のスキルだと言えます。3日間の授業では「広報とは?」から始まり、「ターゲットによる広報戦略の変化」、「多角的に考える事の重要性」など、どれも広報において必須とも言える内容を学びました。皆さんの中には研究者を目指している人も少なからずいると思います。そのような人にとって、研究を知ってもらい、また支持してもらうことの重要性は言うまでもありません。また、この授業で学ぶ「広報する力」は自分自身にも適応できると思います。ひとりひとりの個性や異なるストーリーが求められる風潮になりつつある現代社会では必須のスキルだと思います。ぜひ受講してみてください。(S.K.さん)

『情報の伝え方の重要性』

私は電気通信大学に入学する前に、自分の成果物を発表したり自分自身を表現する経験をしてきましたが、効果的な情報の伝え方や何を意識すればよいかが分からず苦手意識を持っていました。しかし、今回サイエンス・コミュニケーション演習を受け、今後の人生に生かせるような考え方を学べました。3日間の集中講義を通して、先生方が伝えたかったことは自分と相手には情報のギャップがあるため、相手の立場を考えた情報発信が重要であるという点です。また、3人の先生方は三者三様の視点から情報発信に意識すべき点を話して下さった為、より深い理解ができました。私たち電気通信大学の学生は、将来技術者や研究者になる人が多いです。しかし、これらの職業には相手に伝わるように情報発信するスキルが必須です。この集中講義はまさにそのスキルを習得するための道標になると私は考えます。来年度以降この集中講義を受けるか迷っている人は是非参加してほしいと思います。(N.S.さん)

各講義を受講して

『フックから先への努力』
吉澤理先生の講義
「コミュニケーションプランをつくろう」より

「しんかい6500」は知っていても「JAMSTEC(海洋研究開発機構)」は知らない人が多いそうです。JAMSTECの吉澤先生の講義でその現状からしんかい6500などのフックを活用して組織の認知に繋げようとする取り組みを聞いて、こうした「針にかかっても釣り上げきれない」ような課題に向き合う難しさを感じました。実際に受講者の中でも事前にJAMSTECを知っていた人は少なかったことは、スプラトゥーンなどの有名なコンテンツとのコラボを行っていてもすぐには認知に結びつかないという厳しい結果の一部でもあると思います。しんかい6500という活動内容は知ってもらっているのだからJAMSTECという組織のことは知られていなくてもいいのではないか、という観点も伺い驚きました。考えてみると、広報の目的にある人材育成という面では組織の認知が必要になりますが、社会活用を目的にするなら組織ではなく活動内容や技術の認知があれば十分かもしれません。今あるしんかい6500というカードやすぐに思い至る認知度向上という目標など一つのものばかりを見るのではなく、ターゲットや目的によって異なる手法を用いて有効打を探っていく必要性を教えていただきました。(H.S.さん)

『広報活動は何のために行うのか?』
吉澤理先生の講義
「コミュニケーションプランをつくろう」より

1日目では、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)広報課の吉澤 理先生より、JAMSTECにおける広報活動をもとにした、広報のありかたについて講義して頂きました。JAMSTECでは海洋に関する研究を行っており、その活動を一般の方にも知ってもらえるよう、研究者から直接研究についてのお話を聞ける機会を設けたり、テレビ番組などメディアでの露出の機会を設けたり、任天堂のゲーム『Splatoon2』とのコラボレーション企画を実施したりと、様々な手法によって広報活動を行っていることを教えて頂きました。講義の中では、『広報』と『宣伝』は別物であるというお話もあり、非常に印象に残りました。JAMSTECの名前を知ってもらうだけであれば所謂炎上商法のような手段を使えばよいが、本来広報とは伝える相手に『共感』してもらうことが最大の目的であるからこそ、その手段は十分に検討されるべきであるというお話も印象に残っています。授業の後半では、国立科学博物で開催されていた特別展『海』の広報手段について、オリジナルのアイディアをグループで考えました。普段広報活動を行う中では蔑ろにしてしまいがちな背景事情や、広報の結果を検証するための指標についても深く考える必要があり、非常に良い経験になりました。最終的に自分たちの活動を支援してもらうためには、相手のことを考えた広報がいかに重要であるかを体験することができました。(K.S.さん)

『JAXAの広報は十分とは言い切れない』
寺澤勝也先生の講義
「JAXAの広報活動はうまくいっているのか?」より

2日目では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)航空技術部門の寺澤 勝也先生より、JAXAがどのようにして広報活動を進めてきたのか、広報活動では何が求められるか、ということについて講演いただきました。1日目のJAMSTECの吉澤先生も仰っていた通り、私もJAXAの広報はこれまで相当上手くできていると思いこんでいました。しかし、はやぶさや有人宇宙飛行について「研究目的や内容が十分に伝わらず感情移入による共感のみが先行してしまっていた」というお話があり、JAXAであっても広報として本来伝わってほしい内容とは異なることが伝わってしまうことがあることが分かりました。一方で、広報では『相手の共感』と『相手が誰であるか』が重要な点であると、JAMSTECとJAXAがともに評価していた点は興味深かったです。また、先日のメディアを集めた燃焼試験における失敗のように、広報を行う上ではリスクが付き物という事実にも改めて気付かされました。そのリスクがどの程度であるかを認識して必要な対策を事前に検討しておくことが非常に重要であるということについても、今回で学べて良かったです。サイエンスに関わらず『すごさ』を強調したい時は、何がすごいのかを共感してもらえるよう相手レベルによりそった内容にすべきということを学べました。(K.S.さん)

『異なる視点から考える』
木下正高先生,福井萌先生の講義
「対話の場」より

3日目は東京大学地震研究所の木下正高先生、福井萌先生による講義を受けました。前半は南海トラフ地震のメカニズムを解明するための掘削調査に賛成するか、反対するかをグループで話し合いました。話し合いは全部で3回行われ、1回目は事前課題で与えられた背景と情報から自分の意見を話し合い、2回目は木下先生から地震のメカニズムや研究の詳しい説明を受けて再度話し合い、3回目は設定された人物の立場になりきって意見を話し合うというものでした。私は賛成派だったのですが、反対派の意見を知ると自分が考えなかった視点に気づくことができ、こんな考え方もあるのだと感じました。また、与えられた人物の立場になって考えてみると自分の考えや意見も変わりました。自分とは違う意見を聞くことで、新たな視点から物事を捉えられること、相手の立場になって考えてみることが大切だと感じました。後半は「AIロボットを介護現場に導入する」ことについて6つの視点で考えるシックス・ハット思考法を用いて話し合いました。それぞれ異なった視点から考えることができるため情報を整理しながらたくさんのアイデアを出すことができました。今回は複数人で実践したのですが、一人でも行えるためアイデアを出すときにこの思考法を使ってみようと思いました。(N.O.さん)

『その考え、ちょっと待った!』
木下正高先生,福井萌先生の講義
「対話の場」より

3日目は木下先生と福井先生からお話を伺いました。前半は「地震解析のための掘削調査を進めるべきか」というテーマについて3回の議論を行いました。私は初め、このテーマに対して賛成の意見だったのですが、3回目の議論では「旅館の女将」という役職になりきって議論を行い、その結果、意見が180度変わったことには本当に驚きました。もし掘削調査によって地震のメカニズムが解明され、正確な予測が可能となれば、旅館のお客さんが減ってしまうためです。授業の後半ではシックスハット思考法を用いて「ロボットを介護の現場に導入すべきか」について議論を行いました。この思考法では肯定、否定、感情的など特定の側面の意見のみを主張する6つの役職に分かれて議論を行いました。ここでも自分が思いもしなかった意見が数多く登場しました。この日の講義を通して、「立場によって意見は全く異なる」事を今まで以上に強く実感しました。研究者にとって「支持」してもらうことが重要であることを1日目の講義で学びましたが、そのためには「研究者」など一つの視点のみで問題を見ているだけでは不十分である事が体感できる講義でした。(S.K.さん)

ガイダンス

日程:7月24日(月) 5限

場所:D棟101

『サイエンス・コミュニケーション演習』の目的,概要の説明を行います.同時に受講希望者数の調査を行います.

受講申し込み方法

GoogleClassroomの申込フォームにてお申込み下さい

参加人数に上限があります。応募者多数の場合は選抜を行い、選抜結果を連絡します。

本科目の履修登録は、事務局が取りまとめ行います、各自による履修登録は不要です。

申し込み締め切り:8月2日(水)正午 ⇒ 受付け終了しました

講義日程

参加者は以下の日程で行われる専門講師による講演を聴講し,前後に出題される課題に取り組んでもらいます.

  • 9月27日(水),3-4限,[講義会場:A棟A101]
  • 講演者:
  •  国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)広報課
  •    吉澤 理 先生

  • 9月28日(木),3-4限,[講義会場:A棟A101]
  • 講演者:
  •  宇宙航空研究開発機構(JAXA)航空技術部門 事業推進部
  •    寺澤 勝也 先生

  • 9月29日(金),3-4限,[講義会場:A棟A101]
  • 講演者:
  •  東京大学地震研究所 広報アウトリーチ室
  •    木下 正高 先生
  •    福井 萌 先生

事前課題

  • 吉澤理先生(GoogleClassroomに掲載しました)
  • 寺澤勝也先生(GoogleClassroomに掲載しました)
  • 木下正高先生,福井萌先生(GoogleClassroomに掲載しました) 

提出期限:8月31日(木) ⇒ 終了しました

提出方法:GoogleClassroomの課題フォームより提出下さい。

講演案内

9月27日(水), 3-4限:吉澤理先生

講演タイトル:

 コミュニケーションプランをつくろう

講演概要:

広報活動は相手との関係づくり!実践例から広報活動におけるノウハウ・視点・手法等を見つけ、相手と良好な関係性を持つために、どのような創意工夫や苦労があったのかを一緒に探します。演習では、みなさんに広報担当者となってもらい、相手とどんな風にコミュニケーションをとるのかを考え、発表し合います。

9月28日(木), 3-4限:寺澤勝也先生

講演タイトル:

 JAXAの広報活動はうまくいっているのか?

    〜 JAXA広報活動の理解により、効果的な情報発信の方法を知る 〜

講演概要:

「サイエンス・コミュニケーション」、「アウトリーチ」・・・。
普段の生活ではあまり使わない言葉ですが、これは、研究成果を社会に広く還元し、科学の魅力・価値を分かち合うための双方向のコミュニケーション活動のことです。科学技術に関わる人にとって研究成果の社会への公開及び共有を推進していくことは重要です。
一方、このような双方向のコミュニケーション活動を行うためには。効果的な情報発信を行うことが不可欠です。
本講座では。情報発信に関する基本的考え方と目的・ターゲットに応じた手法、及び、発信する情報の本質的な内容に応じた手法について、JAXAの広報活動の具体的事例に基づいて説明いたします。

9月29日(金), 3-4限:木下正高先生,福井萌先生

講演タイトル:

 「対話の場」

講演概要:

様々な立場の人との協働が必然なサイエンスコミュニケーション。ワークショップを通して、PES(Public Engagement of Science)/PPS (Public Participation of Science)の土台になりえる対話の場を体験してもらう。将来自分の専門分野を社会実装する時に生じ得る課題について繋げて考えたり、他者と渉り合う方法を考える際のとっかかりとなる事を願っている。

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