平成23年度『UECパスポートセミナー』の講義内容

1年次の理工系教養科目として『UECパスポートセミナー』を開講します。このセミナーは,それぞれの分野で研究をされている学内の5名の先生方の講演と学内研究設備での実習,学外の5名の先生方の講演と学外の研究施設・研究所の視察からなるユニークなセミナーです。

ガイダンス

10月6日

UECパスポートプログラムの目的とセミナーの内容をご案内します.

学内講師による講演内容

10月13日・講師:中村 仁 准教授

第1回講義「電子線を用いた表面観察・元素分析 −EPMAの原理と観察−」クリック

ミクロな物体の観察手法の一つとして,電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer, EPMA)という装置が科学研究に役立てられている.この装置は走査型電子顕微鏡とX線分析装置の組み合わせにより成り立っている.電磁場によって細く絞った電子線を観察試料に照射すると,試料表面から表面の形状に依存した数の2次電子と,試料の元素に応じたX線が発生する.この性質を利用することによって,EPMAではサブミクロンスケールの試料表面像を得ると同時に,そのミクロな試料表面の元素分析が可能となっている.講義においては,そのEPMAの原理と観察例について紹介する.

レポート課題
  1. 光学顕微鏡と電子顕微鏡の違いについて説明しなさい
  2. 元素の特性X線について説明しなさい
  3. EPMAで元素分析をする原理について説明しなさい

10月20日・講師:安井 正憲 准教授

第2回講義「X線で分子を見る −X線結晶構造解析の原理−」クリック

分子や原子はあまりにも小さくて、直接見ることはできません。物質のミクロな構造を探る方法はいろいろ開発されていますが、固体(結晶)を相手にする場合にはX線回折が非常に強力な手法になります。原子や分子が三次元的に整列した結晶に、目に見える光よりはるかに短い波長の電磁波(X線)を照射すると回折現象が起こります。この回折X線の強度を測定して構造解析を行うと、分子・原子を「見る」ことができます。この講義ではX線結晶構造解析の原理と、主に有機化合物の構造と性質の関係や、巨大なタンパク質分子の構造について紹介します。

レポート課題
  1. X線構造解析と各種顕微鏡との差異について簡単に説明しなさい
  2. 塩化ナトリウム結晶で回折させるには、X線の波長の「光」が必要であることを説明しなさい

10月27日・講師:中川 賢一 教授

第3回講義「レーザーで実現される先端科学技術」クリック

レーザーが誕生してから50年以上たち、今ではレーザーは多くの分野で幅広く利用され、日常生活においてもCDやインターネットや光電話などを通して我々にとって必要不可欠なものになっています。本学のレーザー新世代研究センターではこのレーザーに関する幅広い研究を行っており、新しいレーザーの開発からレーザーを用いた精密計測や原子の操作などその応用範囲も産業から基礎科学と多岐に渡っています。このセミナーではレーザーセンターで行っている研究を中心に紹介してレーザーを用いて実現される最先端の科学技術の一端に触れてもらう予定です。

レポート課題
  1. レーザー光と普通の光源(電球や蛍光灯)から出る光とはどこが違うのかいくつか特徴を挙げて説明してください。
  2. レーザー光の特徴を活かしたレーザーの応用例をいくつか紹介して簡単に説明してください。

11月10日・講師:岡田 佳子 准教授

第4回講義「ナノフォトニクス入門 −光でナノスケールの観察,制御,加工を実現する−」クリック

光は波動性によって回折するため,波長程度より小さな構造の観察や加工はできない,というのが古典光学の常識でした.ところが光は粒子性ももっていて,この場合には光子(フォトン)と呼ばれます.フォトンを利用してナノメーター(10億分の1メーター)スケールの構造を観察,分析あるいは制御,加工する技術は「ナノフォトニクス」と呼ばれ,最近急速に進歩している新しい光科学技術です.フォトンを用いてミクロの世界からナノの世界へと導く3つの光科学として,デジタル超解像,非線形光学,近接場光学があります.ここでは非線形光学を中心として「ナノフォトニクス」を解説します.

レポート課題
  1. 2次の非線形分極P2に電場E=E0cosωtを代入して周波数が変換されることを示してください.
  2. 非線形光学現象の特徴を活かしたナノフォトニクス応用例をいくつか紹介して簡単に説明してください.

11月24日・講師:石田 尚行 教授

第5回講義「記憶する分子 −マテリアルケミストリーの一例の紹介−」クリック

コンピューターはスマートフォンとなって片手に載るサイズとなりました。将来これを腕時計とか指輪に搭載することはできるでしょうか。ダウンサイジングの究極は、分子、原子、電子、光子、これらの粒子を一つだけ使ってデバイスとして仕事をさせることです。こういった研究分野では、ナノテクノロジーはデバイスの集積度を高める工学アプローチの総称と位置づけることができます。本学でもいろいろな方がナノテクノロジーの研究を推進しています。ところで、情報記録材料として単分子磁石というものが脚光を集めるようになりました。文字通り一つの分子が何かを覚えます。この講義ではこの単分子磁石の秘密を考えてみたいと思います。

レポート課題
  1. 反応速度が、exp(-Ea/RT) に比例するものとする(R = 8.3 JK-1mol-1T は絶対温度)。室温(300K)で、温度を10度上げたら反応速度が2倍になった。この反応の活性化エネルギーEaを求めよ。電卓のない場合、絶対温度をT0, T1として立式するだけで可。
  2. 磁性体は磁場が加えられると磁化される。この過程に活性化エネルギーが存在することを証明するためには、周期的に変化する磁場を用いて実験するとよいという。
  3. 「何を測れば」「何が判るか」「それはなぜか」を考えよ。論理を説明できればよく、装置を組み立てるには及ばない。

学外講師による講演内容

12月1日・講師:宇宙航空研究開発機構(JAXA) 航空プログラムグループ 無人機・未来型航空機チーム 未来型システム技術セクション 原田正志 主任研究員

第6回講義「空を飛ぶ -古代から現代まで- 」クリック

人類にとって空を飛ぶということは昔からの夢でした。この講義では古代の気球から現代の航空機に至るまでの時代を5つにわけて紹介します。1(古代)インカでは熱気球が葬送に使用されていたと言う最近の学説に始まり、ライト兄弟へと人類初飛行までの道のりを辿ります。2(黎明期)冒険者達の乗り物であった航空機が、第一次大戦を迎えてどのような性能に達したかを見て行きます。3(発展期)第1次世界大戦後、兵器としての重要性により極限まで洗練されたプロペラ飛行機のキーとなった技術を紹介します。4(ジェット機時代)第二次世界大戦中に実用化されたジェットエンジンにより、この時代の飛行機がプロペラ機の時代とどのように変わったのかを説明します。5(成熟期)長距離高速輸送に欠かせない存在となったジェット機がこの40年の間に何が変わったのかを説明します。最後に、現在JAXAで開発中の垂直離着陸機、通称VTOL機(Vertical Take Off and Landing)機の1例を簡単に紹介します。

レポート課題
  1. 地球上で初めて空を飛んだ動物はどのような動物であるか仮説を立て、図を用いて記載しなさい。
  2. また、この動物が飛行した原因・目的は何かを記述しなさい。
回答例
1.クモ
クモの糸を空中に伸ばし、風に乗って飛行した。
目的
事故
新しい生息地を求めるため
より良い交配のため
2.クラゲ
カツオノエボシのように海面上に気嚢を露出し、風の力で移動する類いのクラゲが腐敗し気嚢の中にアンモニアあるいはメタンの様な軽い気体が充満して空中を舞った。
目的
クモと同じ。
3.魚類
絶滅したが、現在のトビウオの形態をした魚が存在し、水面上を飛行していた。
目的
高速で移動するため
敵に補食されない様にするため
4.ゴキブリ
昆虫が進化し、羽を持つに至った。その際の形態はゴキブリに似ていた。
目的
ウイルスの感染等による形状の変化等の事故
その他はクモと同じ
5.クマムシ(緩歩動物。体長0.5mm。)
クマムシは乾燥で体が水分を失っても、水を与えればまた生き返る(乾眠:クリプトビオシス)。
これらの先祖の中に乾燥が始まると、気嚢を膨らませる種があった。完全に乾燥すると体が軽くなり、気嚢が風を受けて空中を舞った。
目的
ウイルスの感染等に依る気嚢の形成が始まり
その他はクモと同じ

独創性のある仮説に高得点を付けます。

12月15日・講師:東京大学 物性研究所 物質設計評価施設 川島研究室 富田裕介 助教

第7回講義「スパコンがたどってきた道・切り拓いていく道」クリック

「スーパーコンピュータ(スパコン)」---その名を耳にしたことがない人はいないのではないかと思われるぐらい広く知れ渡っている言葉であるが、同時に「スパコン」=「なんかすごいコンピュータ」ぐらいの認識の人がほとんどで、その内容についてちゃんと知っている人はその知名度に反してほとんどいないのではないだろうか。この講演では、スパコンがたどってきた道に沿って、スパコンの進化の歴史とスパコンが果たしてきた役割について学び、スパコンが今どのような構造になっていて、どのように使われているかについて解説する。また、スパコンの今を学ぶことでスパコンの未来についても考えてみたい。

レポート課題

次の文章を読み,設問に答えなさい。

数値計算では通常、並列化できるところと並列化できない箇所がある。プログラム全体に対して並列化できる計算の割合をP(0<=P<=1)とすると、並列化による性能向上率は1/[(1-P) + P/N]で与えられる。ここでNは並列数である。

  1. 上の式で並列数Nを増やしていったとき、並列化可能な部分が多いプログラムとそうでないプログラムにおいてどのような違いが出るか考察せよ。
  2. 並列化できない部分にはCPU間の通信など、並列数の増大とともにコストが上昇することもある。CPU間の通信にかかる時間の割合をCN、それ以外の計算は全て並列化可能だと仮定すると、性能向上率は1/[CN + P/N]で与えられる。このとき、最適な並列数Nを与える式を求め、得られた式から分かることを考察せよ。

12月22日・講師:情報通信研究機構(NICT)若菜弘充 主管研究員

第8回講義「衛星通信に係わる通信・ネットワーク技術」クリック

衛星通信、衛星放送など人工衛星の利用は私達の生活の中ですっかり身近な存在になりました。衛星通信システムはどのような技術で成り立っているのでしょうか。本講義では、人工衛星の軌道と使われる周波数、アンテナと電波伝搬、信号電力と受信機雑音、衛星の回線設計、複数の端末による同時利用を可能とする多元接続技術、宇宙のごみ(スペースデブリ)の問題など、衛星通信システムを構成するそれぞれの要素技術を通して全体像が理解できるように説明します。これまでどのような場面で衛星通信が使われてきたか。現在どのような研究開発が行われているか。講義を通して、新しい人工衛星や衛星通信の新しい使い方をいっしょに考えて見ましょう。

レポート課題
  1. 講義の内容を参考に、新しい人工衛星、通信衛星、観測衛星、新しい通信衛星の使い方を提案してください。

1月12日・講師:理化学研究所 基幹研究所 極微デバイス工学研究室 石橋 幸治 主任研究員

第9回講義「量子効果を使った新しいナノデバイス」クリック

量子物理学によると、デバイスの動作の役割を担う電子や光は、粒子であるとともに波でもあります。しかし、日常の世界では、例えば電子の波動性を感じることはないでしょう。あるいは、光の粒子性を感じることもないでしょう。しかし、ナノの世界になると、事情は変わります。電子はあるときは波のように振る舞い、ある時は粒子のように振る舞い、極端な場合、単電子トランジスタと呼ばれるナノデバイスでは、電子の数を1個づつ数えることもできます。電子のエネルギーが”とびとび”になることも、実験で直接見ることもできます。ナノの世界の電子や光の量子性を利用すると、従来のトランジスタとは全く異なるすごいデバイスができるかもしれません。量子コンピュータというのはそのような例です。本講演では、ナノの世界で電子や光の量子性がどのように実験的に見えるのか、どうやってナノスケールの構造を作るのか、そして、まだ実用にはほど遠いですが量子効果をどうデバイスに使うことができるのかをお話しします。

レポート課題
  1. 電子1個を数える原理はクーロンブロッケードという現象です。この現象は、宙に浮いた金属球に電子を1個付け足す(充電する)のには有限のエネルギー(静電エネルギー)が必要であることに由来します。金属球の自己容量が100pFの場合、このエネルギーは温度に換算するとどの程度になるか見積もってください。(電磁気学の教科書を見てください)

1月19日・講師:京都大学 低温物質科学研究センター 佐々木 豊 准教授

第10回講義「絶対零度の不思議な世界を見る」クリック

これ以上低い温度は原理的に存在しないという温度の底“絶対零度”をご存知でしょうか。自然界では宇宙空間の温度3ケルビン(-270℃)が最低温度ですが、人類の英知は絶対零度まであと百万分の一度未満という恐るべき低い温度まで人工的に作り出すことに成功しました。このような低い温度の世界では、私たちの生きる常温の世界とは異なり、古典的な物理学では理解することのできない、量子力学に支配された摩訶不思議な現象が顔を出して来ます。この量子力学的現象を自由自在に操り活用することが21世紀科学の一大目標と言っても過言ではないでしょう。講義では、超流動・超伝導現象をはじめとする常温では観測することのできない不思議な世界を紹介します。

レポート課題
  1. 我々の生活する常温の世界から温度を下げて、低温の世界にいくことで発現する現象を題材にとりあげ、それがどのような現象であるのか、どのようにして発現するのか、その現象を利用することで発生するメリットがあるとすればどんなものか、について説明してください。

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